佐藤さん(42歳)の憂鬱は、数年前の出産後から続いていた。産後脱毛は多くの女性が経験すると聞いていたが、彼女の場合、一度抜けた髪が完全には戻らなかったのだ。特に、分け目の地肌がくっきりと目立ち、髪全体のボリュームが失われたことで、彼女は自信を失っていった。子供の授業参観に行っても、他の母親たちの華やかな髪型と自分を比べては落ち込み、いつしか人の集まる場所を避けるようになっていた。そんな彼女の様子を見かねた夫が、ある日「一度、専門の先生に相談してみないか」と、薄毛治療専門クリニックのパンフレットを渡した。最初は抵抗があったものの、夫の優しい後押しに背中を押され、彼女は勇気を出してクリニックの扉を叩いた。マイクロスコープで見た自身の頭皮の状態に愕然としながらも、医師は「大丈夫ですよ。毛根はまだしっかり生きていますから」と優しく語りかけた。そして、彼女のライフスタイルや体質を考慮し、彼女自身の血液から有効成分を抽出する「PRP療法」という髪育注射を提案した。自分の血液を使うという点に安心感を覚え、佐藤さんは治療を決意した。月に一度の通院。最初は緊張したが、回を重ねるごとに、看護師や医師との会話も弾むようになった。そして、治療開始から三ヶ月が過ぎた頃、彼女は小さな変化に気づく。シャンプー時の抜け毛が減り、ドライヤーで髪を乾かすと、根元がふんわりと立ち上がるのを感じたのだ。半年後、分け目の白い線は明らかに目立たなくなり、髪に触れるとしっかりとした手応えがあった。久しぶりに参加したママ友とのランチ会で「佐藤さん、何か雰囲気変わったね。すごく素敵」と言われた時、彼女は心の底から込み上げる喜びを感じた。髪を取り戻したことで、彼女は失いかけていた笑顔と、日々の生活を楽しむ心の余裕を取り戻したのだ。髪育注射は、彼女の外見だけでなく、彩りを失っていた人生そのものを、再び輝かせてくれるきっかけとなったのである。
ある主婦の笑顔を取り戻した髪育注射の物語